熟練者の感覚を、次世代に伝える

対象:職人・教育・技能を残したい現場

課題

スキルの習得には、自分やお手本の動きを振り返る内省(リフレクション)が欠かせません。しかし、技能の多くは言葉にしにくい暗黙知であり、とりわけ「どのくらいの力で」「どんなタイミングで」といった力や振動の感覚は、人から人へ伝わりにくいものです。動画による振り返りはこれまでも行われてきましたが、この方法には構造的な限界があります。

  • 視覚だけでは、力の掛け方を大まかにしか把握できない

    映像を見返すだけでは、手や指にどれだけの力がかかっているかは推測に頼るしかありません。推測は粗く、指の位置や動作のタイミングといった大まかなレベルにとどまり、細かな力の配分までは踏み込めません。

  • 自分の力の掛け方でさえ、思い込みと実際がずれる

    本人ですら、自分がどのように力を入れているかを正確には把握できていないことがあります。均等に力を掛けているつもりでも、実際には左右で偏っている、といったずれが生じます。

その結果、映像だけに頼った振り返りでは、力の掛け方についての思い込みが訂正されないまま残り、熟練者の感覚が次の世代にうまく引き継がれないケースが生じます。

アプローチ

前腕の筋活動と指先の振動を記録し、映像と時系列で同期させた上で触覚として再生することで、動作後の内省を支援します。

  • 前腕の FMG(Force Myography)

    力センサーを前腕に均等配置し、筋の変形から力の掛け方を記録します。EMG ではなく FMG を採用したのは、工房のような高温多湿な環境でも汗の影響を受けにくく、安定した計測ができるためです。

  • 指先の振動センサー

    加速度センサーにより、素材に触れた際の指先の微細な振動を記録します。

  • 触覚デバイスによる再生

    記録した筋活動と指先振動を、スキンストレッチ(回転せん断刺激)と振動触覚として再生し、動作後に映像と合わせて体験できるようにします。

記録・再生という構成のため、リアルタイムの操作支援ではなく、動作を終えた後の内省・振り返りを主な用途とします。

期待される効果

力の掛け方の思い込みを訂正できる

沖縄の陶芸家 6 名を対象にした 2 回のワークショップにおいて、映像のみでは大まかにしか把握できなかった力の配分が、触覚による再生を通じて具体的に把握できるようになり、熟練者本人が自身の力の掛け方についての思い込みを訂正する場面が確認されました。

他者の技術についての対話が具体的になる

自分以外の陶芸家の記録データを触覚で追体験した観察者にも同様の発見があり、感覚頼りの曖昧な指摘から、指の使い方やタイミングに踏み込んだ具体的な対話への変化が見られました。

使用するプロダクト

  • SenseFuse®

    筋活動(FMG)と振動センシングを組み合わせ、人が「どこに・どれだけ力を入れているか」をハンズフリーで記録するウェアラブルセンサーです。熟練者の実演データをロボットの模倣学習や技能伝承につなげます。

  • FeelFuse®

    人の手元に力の感覚をリアルタイムに返すウェアラブルハプティックデバイスです。触覚付きテレオペレーションにより、操作の精度と、模倣学習に使う実演データの質を高めたり、没入型コンテンツにおける体験を拡張します。

事例・実証